石井桃子さん、アリガッテ!

5月8日

その頃は、というのは子どもの頃のことだけれど、露草という名前を知らなかったので、とんぼ草と呼んでいた草があって、それを摘んできては色水にしたり、我慢出来なくてハンカチやらティッシュやらブラウスのはしっこやら白いとみればなにと構わずその上に、色をうつしてみたりしていたんだけれど、石井桃子全集の表紙紙をそっとはがしてみえる色は、とんぼ草のその色によく似ている。わたしが一番好きな色。その上にはっきりと紺で書かれた「石井桃子」という文字の色とかたちが、とんぼ草色にぴったりと似合って、まあ、なんと素敵な全集だろう。表紙紙にあるのは深沢紅子さんの絵。父が仕事で頂いてきた深沢さんの画集がわたしの家には幾册かあって、子どもの頃はよく眺めていた。なんにも考えずにみていたんだけど、すーっと風が吹いてくるような盛岡の植物が大好きだった。そうだ、小学生の時、担任の先生に深沢さんのポストカードで暑中見舞いを書いたんだけれど、一番好きなのを送りたくなくて、全く季節外れの絵の入ったので送っちゃったんだった。(『なかよし』の付録のバインダーにお気に入りのカードや『いちご新聞』の付録をためて、老婆が深夜に宝石箱をあけて、うふふ、としているみたいなことをよくやっていたので「イジキタナイ!」とよく非難されていた。そういえば、いま上野にウルビーノのヴィナスが来ていて、わたしはあの絵が大好きなんだけれど、あの美女の怖いような美しさの真後ろで無防備な後ろ姿をさらして衣装箱を漁っている小間使い.....あの方、わたしに似ているかもしれない!)


石井さんの全集を夢中で読んでいた今年の早春、お正月だったので、4月のニュースにはびっくりして口がきけなかったけれど、あんなに素敵な文章がたっぷりと残されているんだもの、という静かな気持ちにもなれた。今ごろは蕗子さんとお肉のバタ焼き(大根おろしはたっぷしね!)をぱくぱくと食べて、海のお家に行く計画でも立てていらっしゃるのかな。きっといい夏を過ごされるんだろうな。