自転車日記

Bunkamuraでやっていただまし絵展にて、ヒンツの筆によるヴンダーカンマーをようやく目にすることができて、こういった事物にずっと心をまどわせて生きていきたいと心の底から強く思った。


以下、超余談。
夏休みで、美術館内はかなりの忍耐力を強いられる状況。後ろからおぶさるようにして一回り小さな彼女を抱きすくめ、指の付け根の全てをぴったりとあわせてもまだ飽きたらない夏まっさかりのカップルは、激しく混雑している館内で片時もそのフォーメーションを崩さない。あれ、ガラスの向こうにオウムが佇んでいるよ、という絵の前でそのカップルの男が言ったのが「こいつは今、絵の中に閉じ込められてんだろ。でももし、こいつがお前にむかって飛び出してきたりしたら、俺のこぶし…すぐ出すからな!」の一言。オウムのだまし絵+こぶし=包容力!恋の季節に楽しませてくれるじゃないの〜。絵の中に閉じ込められてる、のくだりのポエジーもたまらない。

自転車日記

マイフェウ゛ァリット春子といえば!の『晩菊』を観に出掛けたら、噂に寸分違わず、神保町シアターは人・人・人。あっさり振られてふり出しにもどる。[神保町シアター→スイートポーズ→ミロンガでビール]の計画も、最初に映画があるから初めて生きてくるものなわけで、餃子とビールだけをはしゃいでこなすのも「ダンチューか?東京人か?酒屋の前掛けのリメイク和小物か?」で照れくさくて、わたしの好きなお出かけとは違うんだよな〜、などと最高にいらない事を考えてるうちに、アテネで『ピロスマニ』があることを思い出して駆け込みセーフ。もちろん大!感動。スクリーンの端っこ、犬やらガキやらはちみつやらがいつも健気にそっと佇んでいる。大胆なことをやってみせても嫌味にならないのは美しすぎる色味のせいなんだろうか。ずーっと観ていたくなる。


大胆といえば『私は猫ストーカー』面白かった。なんだか、発明と工夫の香りがあたりに漂っているような、すごくわくわくする手触りの映画でした。星野真理がサロンパスのやり取りを背に、カウンターに座っているだけのところ、本当に魅力的だったな。その辺にいる人のふりをして、どこにもいない人みたい。『さよならみどりちゃん』でも大発揮していた、静かなるどこにもいないっぷりが、全く違う面から引き出されていて、観ていてうれしかった。静かなる、というところがすごく好きでした。


☆たのしいおしゃれ情報日記☆


下北沢に新しくできる「COMMUNE」っていうギャラリーショップのオープンが楽しみでしょうがない。「オーラ」が閉店しちゃって下北沢がさみしくなった〜と嘆いていたので「やった!」と声がでました。

水彩画

5月14日

着のみ着のままに、あたりをブラつける季節になったら、わたしがする事。

日曜日、まだ誰も起きていないような時間に早起きして、上から被るだけのような洋服を身につけるやいなや、手ぶらで外出する事。缶ジュースを飲みながらいつもの散歩道を歩く事(庭&犬&畑&木チェック)。そして、お腹が減ったなア、という頃合にはこけし屋の朝市にちゃんと着いて、オムレツにアニョー(ひつじ肉の炭火焼きのこと)それから焼きサンドウィッチも欲張って、思う存分、朝のビールを堪能する事。適度に酔ったらそのまま阿佐ヶ谷まで行って、ラピュタでモーニングを観る事。観終わったらどこかのコーヒー屋さんにはいって、丸々残っている日曜日の午後をどうしたもんか、と思案する事。サイコウ!!


.....っていうのが<ベストな日曜日の朝>として殿堂入りしているので、5月になったら(志し高く!)このパターンだ、とウキウキしていたのに、窓の外は静かな雨だった。きっと西荻近辺の沢山の人々が「あーあ」といったに違いない。こけし屋朝市、毎月、カレンダーに丸印。多くの人が朝から真っ赤な顔をしてふざけていて楽しい。ふざけている大人がいっぱいいる場所に行くのは楽しい。好き勝手にしていられるところもいい。手作りの食べ物も本当においしい。


こけし屋には行けなかったけれど、楽しい日曜日を過ごしたかったので、急遽「カーペンター映画祭inマイハウス」の開催を決定。フードサーヴィスの出店には、ホームメイド水餃子を御用意。これが楽しくないわけがない!土曜日にはやさしいお手紙が届いたし、日曜日は映画で気絶寸前のかっこよさを堪能したし、そんなこんなで素晴らしい週末にめでたしめでたし。


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突然のふとした思い付き

☆「映画の中の素敵なDIY人間」のコーナー☆


『ザ フォッグ』の灯台FM局
(ジングルだけが流れている「放送休止時間」が最高にラジオの感覚ですてき。その後の<喋る水>は「放送休止時間」にラジオをつけっぱなしにしていた事のある人なら一度は頭を掠めた事がある「急に変な音が入ってきたらどうしよう」の気持ちも思い出させてくれて、怖さ倍増でした。レコード抱えて入るラジオ局は海辺の手作り放送局、マイクをあげたら町のみんなに「こんばんは」.....曲の間はボーイフレンドとコーヒー飲みながらおしゃべり「曲がおわっちゃう、じゃ、また後で」.....これに憧れずになにに憧れたらいいの?『今夜はトークハード』の男の子が拵えた<地下海賊ラジオ局>のマインドを持った、つくづくハンドメイドな放送局)


『ピンクキャデラック』の偽造ID及び書類発行所「ニルヴァーナ パブリケーションズ」
イーストウッドファンにはとことん評判が悪い『ピンクキャデラック』だけど、わたしは文句なしに大好き!パーマでくるくる、でっかいリボン、ハイヒールをミラーに引っ掛けたら両足をフロントグラスにひっつけて、運転するのはピンクキャデラック!おまけにフーセンガムつきだ!ニルヴァーナパブリケーションズは山の中にあるヒッピー嫌いのヒッピーの営む<地下出版社>.....とはいっても偽造のID発行の駆け込み寺というのが内実の様子。きちんと片付けられている部屋の中、大きなテーブルの上にはよくわからない資料が散乱している。「さあさ、あんたの名前はなににしよう。ここに気軽な気持ちであたらしい名前を3回書いて。力をぬくんだ。さあ、オーケー。今度はこっち。ここに来て。まばたきしないで、フラッシュたくよ、そら、ワン、トゥ、スリー!へえ、すっごく美人にとれてるぜ。腕もなるってなもんだよな。そしたら一週間後にまた来いよ。あんたの新しい名前で特性のピッカピカ、どこにだしたって恥ずかしくない身分証明書、用意してまってるからよ」てなもんです。滑るようになめらかに機能している手作り小屋の地下出版。キッチン(料理なんてきっとしないはず。何を食べているのかしら?缶詰めを温めてパンと一緒に夕食にしたりしているのかな)には写真の薬品やインクが丁寧に並べてある。これに憧れずになにに憧れたらいいの?

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ついしん
もうちょっとのびのび日記を書きたいなアと春先から思っていたので、ちょっと過去の日記を整理してみました。過去日記はプロフィール欄からみられるようにしてみます。

石井桃子さん、アリガッテ!

5月8日

その頃は、というのは子どもの頃のことだけれど、露草という名前を知らなかったので、とんぼ草と呼んでいた草があって、それを摘んできては色水にしたり、我慢出来なくてハンカチやらティッシュやらブラウスのはしっこやら白いとみればなにと構わずその上に、色をうつしてみたりしていたんだけれど、石井桃子全集の表紙紙をそっとはがしてみえる色は、とんぼ草のその色によく似ている。わたしが一番好きな色。その上にはっきりと紺で書かれた「石井桃子」という文字の色とかたちが、とんぼ草色にぴったりと似合って、まあ、なんと素敵な全集だろう。表紙紙にあるのは深沢紅子さんの絵。父が仕事で頂いてきた深沢さんの画集がわたしの家には幾册かあって、子どもの頃はよく眺めていた。なんにも考えずにみていたんだけど、すーっと風が吹いてくるような盛岡の植物が大好きだった。そうだ、小学生の時、担任の先生に深沢さんのポストカードで暑中見舞いを書いたんだけれど、一番好きなのを送りたくなくて、全く季節外れの絵の入ったので送っちゃったんだった。(『なかよし』の付録のバインダーにお気に入りのカードや『いちご新聞』の付録をためて、老婆が深夜に宝石箱をあけて、うふふ、としているみたいなことをよくやっていたので「イジキタナイ!」とよく非難されていた。そういえば、いま上野にウルビーノのヴィナスが来ていて、わたしはあの絵が大好きなんだけれど、あの美女の怖いような美しさの真後ろで無防備な後ろ姿をさらして衣装箱を漁っている小間使い.....あの方、わたしに似ているかもしれない!)


石井さんの全集を夢中で読んでいた今年の早春、お正月だったので、4月のニュースにはびっくりして口がきけなかったけれど、あんなに素敵な文章がたっぷりと残されているんだもの、という静かな気持ちにもなれた。今ごろは蕗子さんとお肉のバタ焼き(大根おろしはたっぷしね!)をぱくぱくと食べて、海のお家に行く計画でも立てていらっしゃるのかな。きっといい夏を過ごされるんだろうな。

無口な女の子

3月11日

みなさん、きいて。アテネフランセで5月30日、『君と別れて』かかるんだって!(この間の講演の後『楽しみと日々』をめくってみたら、ちゃんと「小旅行」のこと、書いてありました)とにかく忘れないように。


5月のおわり、わたしは何をする人ぞ。以下、めずらしく近況。とにかく今は、期間限定ではあるものの環境変化にくたびれつつ、過去の精算をしているような(と、勝手に思い込んでいる)日々。でも、学ぶことは大きい。小麦粉風味かつその子のお家のオーヴンの香りの染み付いたかわいらしいクッキーが「さあ、召し上がってね」とテーブルに敷き詰められたりするところにいて、失われた日々を取り戻しています。(しかし、最高にかわいい女の子!わたしはそっとみとれたりもするのです)でもまあともかく、わたしはわたしね。お星様にお祈り。すてきな不良になれますように。お祈りだけじゃあダメですけれどね。5月のおわりにはこの日々も切り上げにしたいと暗中模索中。その時にはもっと今の話がしたい。そのくらい、毎日が冒険と発見です。でもゼイタクなことに、その前には大好きな3月と4月がわたしをまっている。大好きな下北沢オーラで春のワンピースを買って、大好きなSOX TROTでお花が一杯ついたソックスをあつめなくっちゃね。大好きがいっぱいでいい毎日ですこと。


そう、それから、5月には瀬田なつき監督の作品が上野の森でかかるのだそうです。この間の最終日に飛び込んだ『娘ごころ』は、帰り道がスキップと駆け足になるような素晴らしい作品でした。帰り道の井の頭線の長いエスカレータは全部2段とばしでした。高揚した。グウッときてラーと倒れる自転車(グラッ!とくるのではなくて、グウッときてから空気の重みに抵抗するような間のある倒れ方をするのです。あの「自転車」は)それから、果物の落ちる音、真夜中の寄宿舎と布団の音、引き出し。学校から支給されているのであろう綿のピロケースに無防備にのっかったあの小さな顔に浮かぶ「ほてり」はどうやってとられたものなのだろう。フィルムに焼きつけて観せてくれてありがとうございます、というような気持ちになりました。お家のこちらをカメラはなぞり、角を折れたところで眼前に披露される「新しい家族」の姿は、首筋を半紙でスウッと撫でられたような感触で、言葉に置き換えるのが難しい、新しい気持ちをわたしの中に教えてくれました。沢山の余白を残しておいてくれる映画、こういう映画が大好きだ。

コカ コーラ

2月4日

先週末にはたのしいことがありすぎて、にこにこでした。遊んで下さった方々、また遊ぼうね☆
そんな週末の中でも特別にピカピカと光る1日の事をメモします。
金曜日、夕方の水道橋を一人、猛ダッシュして金井美恵子さんの講演会(於 アテネフランセ)に滑り込みました。本当に宝物のような夜でした。


この日は大きなサプライズがありました。金井さんが「ちょっと風邪気味なので」とおっしゃった後に、ゲストとして井口奈己監督が登場されたのです!うれしすぎて顔の筋肉が笑ったまま戻らないかと思いました。今、一番お話をきいてみたい大好きなお二人の登場!


「成瀬 溝口 小津 3人の映画に共通して出ている女優で使ってみたい人は誰?」という金井さんからの質問に「木暮実千代」と答える井口監督。わー、意外!わたしはみたことがないのですが『暁の合唱』という作品の木暮実千代がものすごーくかわいらしい女の子なのだそうです。絶対みたい、とタイトルを暗記。『お茶づけの味』で鯉にお麩やってたり、自分だけの女の子ルームみたいなところに閉じこもって煙草すってたりする木暮実千代が大好きなんだけど、ちょっとむくれたりする仕草がなんとなく女学生っぽいんだよなー。箱入りお嬢さん時代の気ままさと気楽さ(とユーウツ)をそのまま持ち続けている奥さんと言うか。そんな感じがなんとも不思議な魅力でした。(顔は女学生じゃないですね。カンロクあるビジン)固さがある人というか.....。その後、じゃあやっぱりこれよね、と『赤線地帯』の話題がでる。映画を観た方なら絶対に忘れられない、眼鏡をかけた子連れの木暮実千代とダメすぎる夫。「あの木暮実千代の顔、どうやって演出したんでしょう?」とおっしゃった井口監督に、大抵の女はそういう顔するんじゃないですか、演出いらず!と金井さん。場内に女性の笑い声が響きました。その語り口のリズムが本当に楽しい。


『マリヤのお雪』などでのカメラの実験性をあげられた井口監督に、昔は年に3本とかのペースで作品をとれたから実験もしやすかったし、割と気楽な面があったんじゃないか?と金井さん。その流れから、井口監督の今回の作品のエピソードに。現場の技術スタッフに「天然」って思われていたみたいです、と悲しいエピソードを話されていた監督。心の中で「わたしたちファンはいるからなー!」と僭越ながら届かない声援を送ってしまいました。(エスパーで伝われー)やっぱりニ本目と言うことで相当プレッシャーをかけられたとのこと。『犬猫』の夕焼けシーンのエピソードを著作の中であげられていたけれど(やわらかな文章に芯がある、すてきすぎる本です!)同じように「時間内で」と言われていらっしゃったようです。それを受けての金井さん「小説は紙とペンがあればいいから、お金もかかんないし人も使わないし、その点はラクよね」にも、わたしはジーンときたりしていました。


他にも、「大谷友右衛門=やじろべえ」発言や(お腹よじれちゃった)
「あの額の...」「東山千栄子」とか
『君と別れて』という映画の事とか(金井さん推薦 推薦する語り口の上手いこと)
ロメールの話や、『噂の女』の立ち上がり方、覗き方の話とか、沢山、沢山。


井口監督が20歳くらいの時、手伝った映画(『三月のライオン』でしょうか?)の打ち上げで観た映画が『驟雨』と『友だちの恋人』だった、というのも心に残るエピソードでした。


それにしても、観たことのない映画はいっぱいあるなーとつくづく思いました。周りの方が一斉にものすごい勢いでメモをとりはじめて、わたしの知らない映画の話でウンウン頷かれているのをみて、(わたしはマイペースというかノンビリタイプなので)ワワワッと圧倒され、己の不勉強さを呪いましたが、それは焦燥感にかられるようなものではなくてちょっとワクワクを伴ったものでした。最後に金井さんがおっしゃった「楽しんでみればいい」っていうのが本当に嬉しい一言だった。だって、わたしだって楽しいから映画観てるんだものなー。これからも楽しんで映画みよう!とウキウキ帰りました。(その後、中野のブリックに一人でよって一杯飲んで帰る、というようなアーバン遊戯をやってのけたことがこの日の大興奮を如実にあらわしている!トネリコのカウンター以外で一人で飲んだのはじめてだわ)